「ちゃんと伝えたはずなのに、相手が理解していなかった」
「質問してほしいのに、なかなか聞いてきてくれない」
ビジネスの現場では、こうした“伝わらない”場面にしばしば遭遇します。とくに新人を育成していると、思わぬところで認識のズレや意思疎通の難しさに直面することがあります。今回は、実際にあった事例をもとに、「なぜ話が伝わらないのか?」を考えてみました。
ある新人指導の場面で起きたこと
最近、新人社員に自社システムのインストール作業を依頼しました。作業自体はやや難易度があるものの、業務上欠かせない基本的な工程だったため、「経験として覚えてもらいたい」と思い、マニュアルを渡して任せることにしました。
わたしは「わからないことがあったら遠慮なく聞いてね」と声をかけ、自分の業務に戻りました。横目で様子を確認すると、特に問題なく作業を進めているように見え、「これなら大丈夫そうだ」と思っていたのです。
しかし、しばらくして新人から声をかけられました。
「ちょっといいですか?データベースについて教えてほしいです」
わたしは「どの部分がわからないの?」と尋ねました。「インストールのこと?それとも設定?」と具体的に掘り下げましたが、返答は曖昧。結局「少し考えをまとめてきます」と言ってその場を離れました。
ところが、30分以上経っても戻ってきません。痺れを切らしてこちらから声をかけると、実際には「データベース管理コンソールにログインできず、作業が止まっていた」ことが判明しました。
「算数がわかりません」と言う小学生のような質問
この状況をわかりやすくたとえるなら、小学生が先生に「算数がわかりません」とだけ伝えているようなものです。先生としては「計算方法?図形?文章題?」と聞き返すしかなく、結局は的確な答えを返すことができません。
本当に理解しようとする子どもであれば、「算数の分数の割り算がわかりません。ここを教えてください」と具体的に質問してくるでしょう。
社会人であっても同じことが言えます。にもかかわらず、新人指導の場面では「何がわからないのかが、わからない」という状況が頻繁に起こります。
なぜ伝わらないのか?3つの原因
このように質問が曖昧になってしまうのには、いくつかの理由があると思います。自分なりに分析をしてみました。
知識不足による「整理できない」状態
新人はまだ経験や知識が浅く、「自分がどの部分でつまずいているのか」を言語化できないことが多いです。結果として「全体がわからない」という漠然とした表現になってしまいます。
質問することへの心理的ハードル
「こんなこと聞いたら怒られるのでは」「自分で調べるべきだ」と考え、つい質問を後回しにしてしまう人もいます。その結果、問題が大きくなってからようやく相談する、という流れになりがちです。
上司・先輩の“安心感づくり”不足
「わからないことがあれば聞いてね」と言葉では伝えていても、実際にどれくらい気軽に質問できるかは雰囲気次第です。上司や先輩が忙しそうにしていると、新人は気を遣って声をかけられません。(もしかしたら、わたしに足りないのはこういったことかも・・・)
指導する側ができる工夫
では、こうした“伝わらない”状況を減らすにはどうすればよいでしょうか。
質問の仕方を教える
「わからないところは“作業のどの工程で・何をして・どこで止まったか”を具体的に伝えてね」と、質問のフレームを教えるだけで、やりとりは格段にスムーズになります。
小さな確認ポイントを設定する
一気に任せるのではなく、「ここまで終わったら報告してね」とチェックポイントを設ければ、途中でつまずいても早めに気づけます。
安心して聞ける環境をつくる
こちらが忙しそうに見えても、「いつでも声をかけていいよ」と態度で示すことが大切です。さらに、質問をしてきたらまず「聞いてくれてありがとう」と受け止めることで、心理的なハードルが下がります。
新人ができる工夫
一方で、新人側にも改善できる工夫があります。受け身ではなく、少しの意識で「伝わらない」を「伝わる」に変えられます。
質問は「状況+行動+課題」でまとめる
「データベースがわかりません」ではなく、
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状況:「インストール作業を進めています」
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行動:「管理コンソールにログインしようとしました」
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課題:「ユーザー名とパスワードを入力してもログインできません」
と整理して伝えることで、相手はすぐに問題点を把握できます。
質問の優先度を考える
「今すぐ聞かないと進めないこと」と「後で調べてもいいこと」を分けておくと、指導者にとっても助かります。「Aは今止まっているので至急相談したい」「Bは余裕があれば教えてください」と伝えるだけで、会話の質が上がります。
メモを活用して自分の理解を整理する
「ここまで理解した」「ここからが不明」という境界線をメモで残すと、質問するときにも的確に伝えられます。さらに、あとで復習するときの記録にもなります。
まとめ:伝わらないのは双方の工夫で改善できる
新人が「わからない」と言うとき、多くの場合は能力不足ではなく、情報の整理や伝え方に慣れていないだけです。だからこそ、指導する側は“聞きやすい環境づくり”を意識すること、そして新人は“具体的に質問する工夫”を持つことが重要だと思います。
伝わらない原因を「相手のせい」にするのではなく、双方が歩み寄ることで、よりスムーズで建設的なコミュニケーションが生まれるはずです。
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